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ビール酵母、発酵、家庭用ビール醸造器 - Beer Yeast, Fermentation, and Home Brewing

酵母

優れたビール設計を行うための酵母の基本知識と活用事例

優れたビール設計をするための、酵母の基本的な特性や酵母のライフサイクルについて説明します。

💡 この記事のまとめ・学べること

・よく使用される酵母「エール」と「ラガー」の比較

酵母の種類 エール酵母 ラガー酵母
別名称 上面発酵:発酵槽の上部に形成される酵母層 下面発酵:発酵槽の下部に形成される酵母層
発酵温度 高い(10~25℃) 低い(7〜15℃)
特性 高エステルであり、減衰率を下げ、凝集性を高めるために、他の酵母と混ぜて利用されることも 低エステル・クリーンなビール

・酵母の基本的な特性

用語 意味 ビールへの影響
減衰率 酵母が、糖をアルコールとCO2に変換する割合 高い減衰率の場合、クリーンでドライな仕上がり。減衰率の低い場合、エステル、モルトなどのフレーバーを付与する。
凝集性 酵母が、発酵の終わりに塊を形成し、完成したビールから沈殿する能力(タイミングとスピード) 高い凝集性の場合、発酵が完了する前にビールから落ちる傾向があり、複雑で比重の高いビールになる。低い凝集性の場合、完全に発酵し、よりきれいな仕上がりになるが、ビールから酵母を分離するのが難しい場合もある。
酵母の耐熱温度 酵母が耐えることができる熱温度 高い温度で発酵する酵母の場合、低い耐熱温度の酵母よりも、エステルを生成する。低い温度で発酵する酵母の場合、クリーンでドライなフレーバーを付与する傾向にある。
アルコール耐性 酵母が耐えることができるアルコール度数 多くの酵母は、高いアルコール度数に耐性があるわけではない。
フレーバー 酵母がビールに付与するフレーバー 例として、クローブとバナナのフレーバーを付与する

・酵母の4つのライフサイクル

① ラグフェーズ ② 呼吸期(成長期) ③ 発酵 ④ 凝集
活性化(繁殖、成長)の準備の段階。グリコーゲンをグルコースに分解することで、活性化。 酵母の細胞を分裂することで、対数的に成長。成長するためには、酸素と様々な酵母の栄養素が必要。 酵母は、単糖を二酸化炭素、アルコール、ビールのフレーバーに変換。発酵は通常3〜7日かかる。 酵母は塊になり、発酵槽の底に沈み始める。活性化に必要なグリコーゲンを貯蔵し、休眠状態に入る準備。凝集には数日から数週間かかる。

Beer Yeast, Fermentation, and Home Brewing
この記事は原著者(BeerSmith)の許可を得て翻訳、一部編集し、公開したものです。
著者: BRAD SMITH


私が醸造を始めたのは1980年代で、自家醸造においては、西部劇のような時代でした。当時は、現在のような技術的な知識もなければ、高品質の原材料を手に入れることもできませんでした。

特に酵母は、この20年で劇的に改善された原材料の一つです。私が始めたころは、酵母といえばドライパックの「パン酵母」しかありませんでした。それには、エールとラガーの2種類がありました。この2種類の酵母は品質に疑問があり、フレーバーや特性に大きなばらつきがありました。

1990年代初頭、Wyeast と White Labsは、アメリカの自家醸造市場に高品質の液体酵母をもたらしました。SafeAleのような会社も高品質なドライイーストを販売を開始しました。これは、説明するのが難しいほどに、自家醸造に革命をもたらしました。

ビール醸造用の酵母について

エール酵母とラガー酵母

醸造用の酵母は単細胞の微生物(厳密には菌類)であり、よく使用されるエール酵母もラガー酵母もSaccharymyces Cerevisiaeの仲間です。ラガー酵母は以前は、S.Uvarumに分類されていましたが、最近見直され、S.Cerevisiaeの仲間になりました。

エールは、発酵槽の上部に形成される酵母層として"上面発酵"と呼ばれますが、ラガーは、"下面発酵"と呼ばれます。

エール酵母は10~25℃で発酵し、特徴として高エステルと低減衰のビールを生産します。さらに、エール酵母は、減衰率を下げ、凝集性を高めるために、他の酵母と混ぜて利用されることがあります。

ラガー酵母は7〜15℃で発酵し、低エステルでクリーンなビールを生み出します。

酵母の特性を知る

ビールに適した酵母を選ぶには、酵母の主要な特性についてある程度知っておく必要があります。

  • 減衰率
    これは、糖がアルコールとCO2に変換される割合のことです。 高い減衰率の酵母は、クリーンでドライな仕上がりになります。減衰率の低い酵母は、一般的にエステル(ester)、モルト(malt)、その他のフレーバーを残し、よりフルボディの複雑なビールの風味を残します。

  • 凝集性
    凝集性とは、酵母が発酵の終わりに塊(フロック)を形成し、完成したビールから急速に沈殿する(またはスキムされる)能力のことです。

    低い凝集性の酵母はしばしば「粉っぽい」酵母と呼ばれます。高い凝集性の酵母は、発酵が完了する前にビールから落ちる傾向があり、より複雑で比重の高いビールを作ります。

    ラガーなどの低い凝集性の酵母は完全に発酵し、よりきれいな仕上がりになりますが、ビールから酵母を分離するのが難しい場合があります。

  • 酵母の耐熱温度
    酵母の種類によって耐熱温度は異なります。エールはより高い温度で発酵します。高温発酵はより高いエステル生成と関連し、低温はクリーンでドライなフレーバーと関連します。

  • アルコール耐性
    多くの酵母は、高いアルコール度数に耐性があるわけでなく、非常に比重の高い麦汁を発酵させることが難しいです。 シャンパン酵母、ワイン酵母、その他のアルコール耐性のある酵母は一次発酵に、または、バーレイワインのような非常に比重の大きなビールを完全に発酵させるために二次酵母としてよく使用されます。

  • フレーバーへの影響
    酵母の種類によって、ビールのフレーバーは大きく変化します。例えば、ヘフェ・ヴァイツェン(Hefe-Weizen)では、クローブとバナナのフレーバーの大部分は酵母から直接得られています。酵母の種類をビールのスタイルに合わせることが、適切なフレーバー付与のための最良の方法です。

酵母のライフサイクル

麦汁を発酵させる際、酵母は4つの段階を経て、発酵します。

  1. ラグフェーズ
    酵母を投入後、「ラグフェーズ」からスタートします。ラグフェーズでは、酵母はできるだけ早く活性化しようと努力します。この段階で重要なのは、酵母の内部に貯蔵されている糖質であるグリコーゲン(Glycogen)で、これをグルコース(glucose)に分解して酵母の繁殖の燃料とすることです。

    酵母の量が少ないと(あるいは酵母自身のグリコーゲンが少ないと)、出来上がったビールに過剰なジアセチル(diacetyl、バターやバタースコッチのようなフレーバー)が出てしまいます。適切なサイズのイーストスターター(Yeast Starter)が重要です。

  2. 呼吸期(成長期)
    この段階では、酵母の細胞は、細胞分裂によって対数的に(通常1〜3倍)成長し、急速に進行します。成長するためには、酸素と様々な酵母の栄養素が重要な要素となり、酸素や栄養素が枯渇するまで成長を続けます。

  3. 発酵
    麦汁から酸素がすべて取り除かれると、発酵の段階 に入ります。酵母は単糖を二酸化炭素、アルコール、ビールのフレーバーに変換します。 糖分が消費されると、ビールの比重は急速に下がります。発酵は通常3〜7日かかります。

  4. 凝集(沈殿)
    発酵の最終段階では、酵母は凝集と呼ばれるプロセスで塊になり、発酵槽の底に沈み始めます。この段階で、酵母は将来の活性化に必要なグリコーゲンを貯蔵し、休眠状態に入る準備をします。 酵母の種類によっては、より早く凝集するものもあり、凝集には数日から数週間かかることもあります。

ビールのレシピ設計における、酵母の活用例

多くの場合、レシピ設計の際に、自分のビールスタイルに合ったWyeastやWhite Labsの酵母を選択します。では、例えば、アイリッシュスタウトを醸造する場合はどうでしょうか。アイリッシュスタウトは、焙煎した大麦に由来する非常にドライなロースト感が特徴です。

伝統的な酵母を選択するとしたら、White labs WLP004のようなアイリッシュエール(Irish Ale) になるかもしれません。しかし、WLP004の減衰率は71.5%と控えめで、よりフルーティーな仕上がりになります。または、WLP007「ドライイングリッシュエール」酵母を選ぶことができるかもしれません。この酵母は減衰率が75%と高く、スタウトに必要なイングリッシュ エステルを残しながら、よりドライな口当たりが得られるでしょう。

一方で、White Labs California Ale WLP001という酵母を、醸造するすべてのビールに使用している醸造家を何人か知っています。この酵母を使用している理由は、エール酵母としては比較的フレーバーがニュートラルで、減衰率が非常に大きく、どんなビールにもクリーンな後味を残すからです。また、発酵が早く、ビールからすぐに凝集するため、保存期間も短く済みます。 個人的には、この「一長一短」なアプローチには賛成できませんが、多くの醸造家がこの酵母で大きな成功を収めています。

上記はほんの一例ですが、優れたビールのレシピ設計の鍵は、扱う原材料を理解することです。 酵母の特性、そして酵母がビールに与える大きな影響についての知識は、より優れたビール醸造家になるための助けとなるでしょう。

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出典元
Beer Yeast, Fermentation, and Home Brewing
この記事は原著者(BeerSmith)の許可を得て翻訳、一部編集し、公開したものです。
著者: BRAD SMITH


※1 beer と wort の違いについて
Wortとは醸造用語で、未発酵のビールを意味します。つまりは、飲めるビールとなる前のビールです。

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